2023.1/10「部屋」
- ろばすけ

- 2023年1月10日
- 読了時間: 2分
更新日:2023年1月21日

触れたら10秒で死んでしまう。
そんなピンクの雲が、ある日突然現れた。
いったい世界中でどれだけの人が死んだのか、そもそも世界中どこでも同じ現象が起きたのか、それすらわからない。
平凡な土曜日の朝だった。
うっすらと曇っていて、暑くもなく寒くもなく。
俺たちは前の晩のパーティーの酒と、その勢いでやったセックスの余韻の両方に埋もれたまま、その時を迎えた。
「窓を締め切って、絶対に外に出ないでください」
朝から晩までそんなアナウンスが流れ続けた。テレビもラジオもインターネットも、街頭のスピーカーからも。
俺たちは、いやみんなが、そのとき「たまたま」居合わせた場所から動けなくなった。それだけだ。
彼は「うちの犬はどうなる?」って泣いた。それが2日目の朝のことだ。
それから一週間たって、彼はもう犬の話しはしない。
状況はあんまり変わってない。
ここから出られるのがいつなのかさっぱりわからない。
「夢なんじゃないかと思う」と彼は言った。
僕の部屋は叔母が残した一軒家で、ゲストルームはあるけど今のところ彼は僕のベッドで毎晩眠る。
セックスは、最初は現実から目を背けるために朝から晩までやったけど、ここ数日は兄弟みたいに一緒に眠ってるだけだ。
「ひどい悪夢だな」
僕がそう返したら、彼は笑った。
「どうなんだろう。戦争が起きるわけでも餓えるでもなく、ただここで君とやりまくってるだけなんて」
最初に恐れたのは、ここで飢え死にするのかもしれないってことだったけど、意外と早くドローンで食料品をデリバリーしてくれるサービスが現れた。
とりあえず外にでなければ死なないとわかったら、僕は意外とやっていけるかもしれない、何て楽観的なことを思いもした。
まあ今は違うけど。
「つまり「幸せだ」って思い込もうとしてるんだ?」
「想像してたディストピアと違うってだけだと」
「君は自分の犬の亡骸を見ることもないわけだ。確かに「幸い」かもな」
そう言ってやったら、彼はすごくつらそうな顔をした。
「意地悪だな」
そう言われたけど、反省はしない。
「本当のことを言ってるだけだよ。ここは君の部屋より広いだろうし、僕はこの状況になっても収入はありそうだし、一人で狂ってくよりは君とケンカしてる方がましだ」
言いながら、本当にそうだろうか?と思ってた。
本当は幸せだと思ってるのは僕の方かもしれなかった。
まだ、今の時点では。
(ピンククラウド)



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