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2023.1/12「夢の時間」

  • 執筆者の写真: ろばすけ
    ろばすけ
  • 2023年1月12日
  • 読了時間: 3分

更新日:2023年1月21日


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「「幸せを感じる時間」を夢で見たとして、君ならどんな内容になる?」  突然のそんな質問に、僕は驚いてまじまじと彼を見た。職場の近くのダイニングバーはいい感じに満席で、酔っぱらった人たちの会話が、流れている音楽をかき消しそうな勢い。料理はおいしくて、フレンドリーなスタッフが通りかかるたびにちらりと視線をよこし、適度に構って去って行く。彼が教えてくれたんだけど、いい店だ。  僕らはまだ知り合って間もなくて、お互いに距離を測り合っている感じだ。  こうして二人だけで飲みに来てる段階で、「職場の顔見知り」の域は出た。たぶんお互いに興味がある。でも付き合うとか、肌に触れるとか、そういう話にはまだなってない。とりあえず、今のところは。  そういうタイミングで相手に投げかける質問がどういうのが「ふつう」なのか、詳しいわけじゃないけど、やっぱりこれはちょっと面白い。 「なんのテストなんだよ」 「テスト? そんなんじゃないよ。純粋に興味があって聞いてる」  ふうん。  モテるに違いない彼のいつものパターン、なのかもしれない、と僕は思った。  この、どうにでも取れる質問に、「正解」とかないんだろうけど、「不正解」は確実にある。きっと。  そんな予感がして、僕は妙な緊張を感じてる自分に気づいて、そして改めて知った。  ああ僕は、ここで失敗したくないってすごく思ってるんだな、って。   「……季節は初夏で、湖畔かどこかで、仲間と、焚火を囲んでるんだ。  まだ暮れきってないけど、日はだいぶ傾いてる時間だ。  暑くも寒くもなくて、みんな好き勝手におしゃべりしてて、なにか焼いてる旨そうな匂いもする。湖から渡ってくる風に、どこに咲いてるのかわからない花の香りが混じってる。  飲んでる連中はもうだいぶご機嫌になってて、誰かがギターを持ち出すと、誰かが合わせて歌いだす。  僕は火から少し離れた場所に座ってて、だから風の匂いもわかって、音楽を聴きながら気持ちよくなって目を閉じる。  そしたら隣に座ってる、誰か、僕の大好きな人が僕の手を握って言うんだ。 「ここで寝ないでくれよ?」って。すごく優しい声で。  そういうのが、「幸せな夢」ってやつかなと思うよ」  考えながら、僕がぽつぽつ言葉にした内容は、なんだかふわふわした雰囲気みたいなもので、特に内容があるわけじゃなかった。  友達とだらだら外で過ごして、愛する人もそばにいる。そういえばそんな時間を久しく過ごしてない、って気づいたのは話し始めてからだったと思う。  変に長くなっちゃった。  そう思って、僕は急に恥ずかしくなって付け足した。  ほんの少しだけ驚いたような顔をした彼が僕をじっと見てたからだ。 「ごめん。なにを言い出したんだ? って感じだよね」  焦ってそう言ったけど、彼は柔らかく笑って答えた。 「まさか。素敵だよ。……よかったら、初夏になったら一緒にどこかに出かけない? 今君が言った通りの感じになるかわからないけど、湖畔のバンガローを借りられる場所を知ってる」  僕は思わず息をのんだ。  僕らはまだ知り合って間もなくて、お互いに距離を測り合っている感じだ。  お互いに興味があるってことはわかってる、でもまだそこまで。たった今までそう思ってた。  けど。 「連れて行ってよ。初夏を待つ、なんてしなくたっていい。きっと真冬に行っても美しいところなんじゃないかな」  僕がそう言ったら、彼はなんだかとても嬉しそうに笑った。 (クワイエット・プレイス2の、あの島のシーンが好きだ) https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/AZMmUy2qL6A


 
 
 

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