2023.1/18「目撃者」
- ろばすけ

- 2023年1月18日
- 読了時間: 2分
更新日:2023年1月21日

彼と知り合ったのは、彼がスリをしようとした瞬間を、偶然見てしまったのがきっかけだった。 最初は彼の手が、となりのベンチに座っている女性のバッグに伸ばされたのを見た。 持ち主の女性が、バッグのかすかな動きに反応したせいで彼は手を引っ込め、私は自分が見たのが本当に「未遂」だったのか、それともそれっぽく見えただけで全然違う仕草だったのか判断がつかず、でもどうしても気になって、そのままそ知らぬ顔で移動した彼の姿を目で追った。 こみ合った駅の待合室だった。 並んだベンチにたくさんの人が座り、たいていが大きな荷物を持っていて疲れた顔をしている。 なるほどスリを働くには理想的な場所なのかもしれない。と変な感心をしかった私はすぐに気づいた。 電光掲示板を熱心に見上げている男の人の隣に立った彼は、するりと、まるで触れてもいないような滑らかな動きで指先を相手の手首のあたりでひらめかせた、と思った次の瞬間には、男の人の手から腕時計が外れて、一瞬で彼のコートのポケットに消えたのだ。 今度こそ本当だ。 これは犯罪。そうわかってるのに、私は夢中になって彼を見続けた。 なぜって、それまでそんな「スリル」を味わったことがなかったから。 私の視線の先で、彼は抜かりなく周囲の人々の様子を伺い、別の男の財布をポケットから抜き取り、話しかけた年配の女性の首飾りをするりと抜き取った。 そしてその頃には、彼は私の視線に気づいていた。 そして見抜いてもいたのだ。 私がどうやら通報する気なんかなく、この「ショー」にある意味夢中になってるんだって。 「ジョーンについて」
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