2023.1/19「息子」
- ろばすけ

- 2023年1月19日
- 読了時間: 2分
更新日:2023年1月21日

「あなたという存在はほんとうに素晴らしいわよね」
彼女がそう言ったので、僕は笑った。
僕らは青い壁紙で彩られた美しいキッチンで向き合っている。
「田舎の家」と彼女が呼ぶその屋敷は、元々彼女が生まれ育った生家で、僕にとっては「夏の家」だった。
プールがあり、周囲は林と農場で、麦と飼料の匂いがし、他人の姿を見かけることは滅多にない。
ここではもうずっと長いことなにも変わっていなくて、「ここにいると青の底に沈み混んでしまう」と彼女は言う。
僕が大好きなこの家を、彼女は嫌ってる。
それは明白だったけれども、その理由について、僕らは「けして」話題にしない。
それがふたりの間にある重大なルールだ。
そうでないと、すべてが壊れてしまうから。
でもどうやら、彼女はそのルールを変えることにしたみたいだった。
「世の中の母親というものはそう思ってるものなんじゃないの? 程度の差こそあれ。もちろん100%じゃないにしても」
彼女の発言にたいして、僕がそう混ぜ返すように言うと、彼女は冷静に言った。
「そうじゃなくて、」と。
「私が産んだ息子じゃなくて、「あなた」のことよ」
その言葉に、僕は言葉をのみこんだ。
僕はあなたの息子の亡霊だ。
もう20年以上も一緒にいて、そして確かに、あなたの作品、でもあるのかもしれないけれど。
「亡霊」とは呼びたくない。
そう言ったのは彼女だった。もうずいぶんと昔のことだ。
「息子でも亡霊でもないなら、僕は一体なんだろうね?」
そう問うと、彼女はしばらくの間黙って僕を見つめ、そして言った。
「私もそれを考えていたのよ。もうだいぶ、しばらくのあいだ。
そして思ったの。あなたは、鏡に映った私、みたいなものなのかも? って」
「ジョーンについて」
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