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2023.1/20「夢」

  • 執筆者の写真: ろばすけ
    ろばすけ
  • 2023年1月20日
  • 読了時間: 3分

更新日:2023年1月21日


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「虫が苦手なの?」  そう言って彼は笑った。 「なんでだよ。君の方が圧倒的に大きいし強いだろ」 「でも動きが読めないし、なんかやなんだよ」  僕がそう返したら、彼は不思議そうな顔をしながら明かりを消した。  部屋のなかをめちゃくちゃに飛び回っていた羽虫は、周囲が薄暗くなると少しおとなしくなり、しばらく飛び回ったあと、彼が静かに伸ばした指先にとまった。  まるで彼がそう命じたみたいに。  なぜか僕はそう思った。  彼はそっと窓辺に寄ると虫を外に出して言った。 「簡単だ。光に寄ってきただけだよ」  そんな言葉を、僕は信じなかった。 「ここは僕のいるべきところじゃない」  彼はよくそう言った。 「ここ」は僕らみたいな「保護者」がいない子供が集められている家で、最低限食べるのには困らず、寒くもなく、自分のベッドで眠ることができたけど、それだけだった。「最低限」の底を探っているみたいな場所だった。みんなが食べ物ではない「何か」に飢えていた。  でも彼は少しだけ違った。  誰が聞きつけたのか、そんなことが可能なのか知らないけれど、「あいつの親はころされたらしい」って誰かが言っていた。ほんとうかどうかは知らない。聞いたりはとてもできない。そんな雰囲気が、彼にはあった。僕より本の1つか2つ、年上なだけのはずなのに、もうずっと長いこと、ここに「閉じ込められてる」って顔をしていた。  食べるものや着る物や、学校で流行っているのに僕らには与えられないゲームの類や、もっと親密な愛情みたいなもの。僕らは常に常になにかを欲しがっていたけれど、彼が求めているのはそういうんじゃない、という感じがした。 「ここ、じゃないならどこがいるべきところなの?」  ここにいる連中はいろんなものを欲しがっていたけれど、元いた場所に戻りたいと言うことはあんまりない。過去にいい思い出があることはあんまりないから。  でも僕がついそう聞いたら、彼は言ったんだ。 「いつか一緒に牧場で暮らすんだ」  一緒に。  彼は誰と、とは言わなかった。  僕らはめったに人に自分の本当の望みを言わない。  新しい服が欲しい。流行のスニーカーを履きたい。二段ベッドの上がいい。ゲームはみんなで一つじゃないで自分のがいい。  そういうのと違う、本当の望みは、言ってもどうせかなわないからだ。  僕も誰にも見せない手紙を、ずっと隠して持っている。母さんがくれた、「いつか迎えに行くからね」と書いてある手紙だ。  僕はもう子供じゃない。それが本当じゃないってことはとっくにわかってる。  でもここにいるみんなは、それぞれ、そんな夢みたいな紙切れを大事に持っているんだ。  叶わないと知ってるけど、ただしがみつくために。 myFFF「僕たちの城」

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