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20230128「島の記憶」

  • 執筆者の写真: ろばすけ
    ろばすけ
  • 2023年1月28日
  • 読了時間: 2分

更新日:2023年1月30日

 新しい生活を始めて、それにすっかり馴染んでしまうと、あの島での生活が夢だったように思えることがある。

 生まれ育った場所なのに、古い恐ろしい物語の一場面に居合わせてしまったかのような、そんな気持ちになる。

 投げつけられた血まみれの指も、岩だらけのやせた土地に吹き付ける冷たく湿った潮風も、どこまでも連なっていく積み上げられた石塀も、平気で家の中に入ってくるろばも。

 なにもかも今私の周りにあるものとは違いすぎるから。

「ここ」が現実なら、あれはそうじゃなかったのかも。だからあんなにも寒々しく、恐ろしく、そして美しかったのかも。だからいつ目を閉じてもあまりにも生々しく思い出されてしまうのかも。


 一番恐ろしいのは、湖の向こうから、まるで私のことを呼んでいるみたいに手招きしていた彼女の姿の記憶。

『俺もあの婆さんのこと「死神」って呼んでるんだ』

 そしてあの時、そう言った彼の顔。


 あの子が亡くなったと聞いたのは、ずいぶん後になってからのことだった。兄はその話を私にするべきじゃないと思ったそうだから。最初は。結局はしたけれど。

 そのころには、兄はかつての「いい人」の面影をすっかりなくしてしまっていて、私はもう島に戻る理由をなくしてしまった。

 だからなおさら、記憶が恐ろしく、その分美しく思えるのかもしれない。

 私の身近にいた男たちがけして離れようとしない、そして飲み込まれるみたいにして狂っていった島にあったすべてのものの記憶が。

 だから私は、もう忘れたふりをするしかできることはないのだ。



「イニシェリン島の精霊」妹目線

https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/w3IgHGQt9gc

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https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/w3IgHGQt9gc

 
 
 

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