20230129「娼婦」
- ろばすけ

- 2023年1月29日
- 読了時間: 3分
三十五年も経ったら、ふつう人はすっかり変わってしまう。
私はあなたにとって「夢の女」だった。だから、本当には手に入らない、とわかったら強引に犯して「手に入れた」ことにした。
あなたにとって「女」は、聖女か娼婦かのどちらか。
だから車の中で服をはぎ取られ、無理やりやられるような女になり下がった時点で、もう私は要らないものになった。「そう」したのがあなた自身だろうと関係なく。
あなたはずっと私を想ってた、と言うかもしれない。でもあなたが想っていたのは、自分が「殺した」女のことでしょう?
今の私のことじゃない。それだけははっきりしてる。
三十五年も経ったら、ふつう人はすっかり変わってしまう。
あなたは遠く離れた場所へ逃げ、ここでの暮らしのことは忘れて過ごした。
私も遠く離れた場所へ逃げ、ここでの暮らしのことは忘れようとした。別人になるつもりだった。あなたが望んだようにではなく。
でも、ひとり、ずっと変わらなかった人がいた。
マックスは最初からずっとあなたのことを愛していた。愛なのか執着なのか私には区別がつかないけれど。
あなたがいなくなったあとも、文字通り「別人」になったはずなのに、マックスの気持ちだけは変わらなかった。
彼があなたを騙したのは、あなたが絶対に手に入らないとわかっていたから。
だから遠く離れ、別人として生きていくために自分を「殺し」、あなたを裏切った。でも結局、忘れることはできなかったのね。
愛なのか執着なのか、私には区別がつかないけれど。
苦しんだ彼が手に入れようとしたのは、あなたが愛した私だった。
ほんとうは、私を手に入れるのは簡単だった。
ハリウッドでは夢見ていた未来を手に入れられなかった私に、彼はブロードウェイでの成功を約束してくれた。
昔の彼は、あなたに次々と女をあてがっていたでしょう?
彼は本当は女に興味がないくせに、あなたが抱いた相手を、そのあと自分も抱いて満足しようとしていたの。一度酔った勢いで言っていたことがあるから本当よ。
つまり私も、「あなたが抱いてそのあと彼が抱いた女」
あなたにとって「女」は、聖女か娼婦かのどちらか。あなたが引きずりおろした聖女は、結局ほんとうに娼婦になったというわけね。
三十五年も経ったら、ふつう人はすっかり変わってしまう。
あなたも私もすっかり変わり、結局まるで変わっていないのは、名前も地位も別人になったマックスだけ。
面白い話だと思う?
私にはちっとも笑えない。
あなたは昔のことを懐かしく思うこともあるのかもしれない。でも私には、最初から何もかも間違っていたように思えてならない。
私たちはもう二度と会うことはないでしょう。でもどうしてもこの話はしておきたかった。
だってあなただけが「本当のこと」に気づかないまま、だなんてずるいと思うから。
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」デボラ目線

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