20230206 「親子」
- ろばすけ

- 2023年2月6日
- 読了時間: 3分
私は昔から母さんが嫌いだった。
父さんと母さんが離婚して、父さんと暮らすことになったらいいのに、って真剣に夢に見てた。
父さんは優しいし私をむやみに非難しないし、なにか変わったことをしてもあきれた顔をするんじゃなく、一緒に面白がってくれた。
私は母さんの口癖が嫌いだった。
「父さんについてきたせいで、私はこんな貧乏くさい店で他人の洗濯物に埋もれそうになってる。一緒にアメリカになんか来なければよかった」
ひとのせいにしてるけど、その言葉が本当だとは思えない。ましな人生が待ってたなんてどうして分かる?
本当は取り柄がないのは母さんの方。何をやっても続かなくて、家の中はいつもとっ散らかってて。
私も父さんもそれはよくわかってた。けど言わなかった。そんなことを言ったら母さんは怒りながら泣くから。何が最悪ってそのときの騒ぎが一番最悪だって分かってるから。
私は家を出て、ずいぶん長いこと寄り付きもしなかった。
帰ったのはベッキーが言ったから。
「今日あんたのパパに会ったよ。店に来てあんたを探してるって言うから「今日は来ない」って答えたら、すごく悲しそうな顔をして、「あのこの父親なんだ」って言ったの。
だから明日は来るって教えてあげた」って。
私は頭にきて言ったの。どこの誰だか知らない男にそんなこと教えるなんて、って。そしたらベッキーは笑った。
「あの人はあんたのパパでしょ。悲しいときの顔がおんなじだからすぐ分かった」って。
大好きなベッキー。
あんたは私のことを救ってくれた。
なにもかも嫌いでずっと怒ってた私に、「笑ってよ」って言ったよね。
「あんたの笑顔が大好きだから、いつも笑っててほしいんだ」って。
そして私は気づけた。だからそのまま言った。
「私もあんたに笑っててほしい」って。
私は母さんも自分も嫌いだけど、ベッキーが私を好きなら大丈夫。
そう思えたから、私はやってこれた。
一緒に暮らすようになって、父さんにはふたりで何度か会って、「ふたりで遊びにおいで」って父さんが言ったから紹介した。
母さんとはやっぱりけんかになった。もう二度と行かないってまた思った。
でもベッキーは笑って言ったんだ。
「あんたは顔はウェイモンドにそっくりだけど、性格はエブリンにそっくりなんだね」
私がどんなに呆れて怒ってみせたかわかる?
冗談じゃない。ほんとうに大嫌いなのに!って。
でもベッキーは笑ったままだった。
「ほらそういうところが同じだよ」って。
私は昔から母さんが嫌いだった。
何をやっても続かなくて、家の中はいつもとっ散らかってて。
自分が嫌なことを指摘されると怒りながら泣く。そりゃあもうかんしゃくを起こした子供みたいに。
でも、本当は愛情深い。表現が致命的に下手なだけ。自分が一番その事に苛立ってて、うまくいかないと悲しくなってしまう。
私は、自分とそっくりだから、母さんが嫌い。
でもベッキーは言ったんだ。
「レイモンドとエブリンが30年続いたんなら私たちも大丈夫ってことじゃない?」って。
何て言いかた!って思ったけど笑っちゃった。
ほんとうに、そうだったらいいね。
ううん、きっとそうだね。



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