20230312「忘却」
- ろばすけ

- 2023年3月12日
- 読了時間: 1分
「何を言ってるんだ? あの子はいい子だよ。才能もある」
彼がそう言ったのを聞いて、覚えのある疲労感に襲われて思わず笑ってしまった。 だって思い出したから。そうだった、この人はいつも自分の事ばかりなんだと。
なんだって前向きに捉えようとする。どう考えてもムリがあるような事を言い換えて自分を納得させようとする。頑なに、見たいことしか見ない。
あの子はいい子なんかじゃない。
そうわかってしまうことに、実の母親なのにそれを認めざるを得ないってことに、私がどれだけ苦しんだかなんて、理解しようとはしない。
それどころか彼は、自分がどれだけ苦しんでいるのかって事すら、見ようとしていない。 自分の姿からすら目をそらして、そうして時間をかけて自らを罰してる、
彼がこんな姿で、こんなやり方で「死を選んだ」事を見せつけられる私たちの事など、もちろんなにも考えてはいない。
忘れてしまえればいっそ楽なのに。
そう思っていることだけが、今となっては私たちの間にあるたったひとつの共通点なのかも。
「ザ・ホエール」



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