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Gaze 1: RH展示 20230503 ①

  • 執筆者の写真: ろばすけ
    ろばすけ
  • 2023年5月2日
  • 読了時間: 6分

tst さん(@Blind_mrj)が描かれたイラストのイメージで書かせていただきました。 「その前後」を想像したくなる作品を描かれて素敵なのです✨

全然想定と違うことになってしまっていたりしたら申し訳ない…と思いつつご連絡させていただいたのですが、展示ご快諾いただきましてありがとうございます!下線引いてあるところから元の投稿にリンクしています。





「なんでだっけ。忘れた。なんかそんな話になったんだよ」

なんで。

もう一度同じ返事をしそうになったがやめた。あまりにも馬鹿げたやり取りだと思ったからだ。


そう、理由なんてないし別になんの意図もない。なんかの勝負に負けたとか、売り言葉に買い言葉的なやり取りがあったのか、それとも本当になんの理由もなかったのか。

あいつの部屋に行く、ってことに動揺するなんて俺だけの特殊な事情だ。

特殊な。




いつからなのかはわからないけど、俺にはどうにも、あいつのやることなすこと全部が引っ掛かる。

例えば俺にしては珍しく寝過ごした日。

頑固な寝癖が後頭部に残ってることはわかってたけど、仕方なく基地に向かったら案の定何人かにからかわれた。

「珍しいな」

「お前らしくもない」

そんな声を適当にあしらっていたら、あいつは言った。





なんなんだよそれは。

寝癖ついてるのに気づいてないのか、気づいてて敢えて言ってるのか?

そう突っかかりたくなる。

あいつなら気づいてない可能性もあるけど、嫌味で言ってるんじゃないのはわかる。けど。


I know.

どんな意味で言われたんだとしても問題ない、俺らしい返事だ。

知ってるよ。俺はちょっとばかり寝癖がついてたって格好いいし調子もいい。寝坊するなんて年に一度あるかどうかっていうくらいの珍しい失敗だけど、遅刻したわけじゃない。


でも本当は全然大丈夫じゃない。

それどういう意味だよ? ってずっと聞きたくてたまらずにいる。

あの任務以来まるで当たり前のお決まりの挨拶みたいになってるやり取りも、なにかというと俺を見てるその視線も。


そう。おまえ、なんで俺を見てる?





いつもの店で楽しく飲んでるときでも、たまに、ごくたまに、突然一人になりたいって思うことがある。

別にそんな深刻な話じゃない。

コヨーテはわかってて、そういうとき黙っててくれる。

ただちらりとこっちを見て、頷いて、でもそれ以上なにも言わず放っておいてくれる。俺が一息ついたら戻ってくるってわかってるからだ。構われたくないだけだってわかってくれてるから。



でもあいつはそうじゃない。

他の大抵の連中は、俺が姿を消しても気づきもしないのに。

あいつはいつも、どういうわけかそれに気づく。

そしていつのまにか俺の隣に現れたりするわけだ。


「なんだよ」

「別に」


会話なんてない。

しばらく黙って、夜の海の音だけ聞いてたりして。

俺はただ、分厚いあいつの体の、触れてなくても伝わってくる体温みたいなものをぼんやり感じ取っている。

訓練の合間や、盛り上がってるバーのなかとかでは、どんなに近くても感じ取れないようなそれ。


なんで落ち着くような気がするのか、考えたくない。


そしてしばらくするとあいつは言う。

「戻ろうぜ。寒い」

寒いわけがない。わかってるけど、俺は一人でそこに残ると言い張る気にもなれなくて、曖昧に頷く。

いったいなんのつもりなんだ。

そう言いたいのに、結局言わずに。




あの任務のあと、しばらく与えられた特別休暇もそろそろ終わりだ。

みんな好き勝手に過ごしてたけど、改めて終わりが見えてくると集まることがまた増えてきた。

でもルースターの部屋に行くのはそれが初めて。

長期で海上任務中の友達から借りたという部屋は、そのせいで仮住まいって感じじゃなく、家具も揃ってて意外と広々としていた。

「こんないいとこに住んでたんならもっと早く押し掛ければよかった」

フェニックスが言った一言はあながち冗談じゃなかっただろう。


集団の一員としてなら別に普通に過ごしていられる。

あいつは一応部屋の主としてあれこれ(意外にもちゃんと)みんなの世話を焼いていたから、そんなに気にしないでいられたっていうのもある。


でも、だからってちょっと油断しすぎた。

気づいたら、俺は眠ってしまっていたんだ。 ソファの前に敷かれた気持ちのいいラグの上で。

問題は、目覚めた理由だ。体の片側が妙に重くて、俺は目を覚ましたんだ。




とたんにアルコールなんか全部吹っ飛んだ気分になって、俺はいったい何が起きたのか推し量ろうとした。

視線を周囲に向けてみても、仲間の姿はどうやらもうない。部屋のなかは最低限の明かりだけ残して暗くなっていた。

目の前にあるローテーブルの上にはまだビールの空き瓶が残っていたが、おそらくみんな帰ったんだろう。眠ってしまった俺と、この部屋の主であるルースター以外は。


だからってなんで?

俺は混乱したまま、それでも身動きひとつ取れずにしばらく黙っていた。

どうやら熟睡しているらしい彼の頭は俺の腰のあたりにあった。

「触れてなくても伝わってくる体温みたいなもの」どころじゃない。はっきりと鼓動と、規則正しい呼吸と、ずっしりとした重みと、そして想像以上の熱として。


勘弁してくれよ。

俺は誰にともなくそう訴えたくなった。

どうしてこんな状況になってるんだ?


飲みすぎた自覚はあった。誰かが「皆で集まるのもこれが最後かもな」なんて言い出したせいだ。 休暇が終わったらもうめったに会うこともなくなる。そんな話をしていて、それはもちろんわかっていたことだったけど、改めてしみじみ、俺の世界からあいつはいなくなるのか、って考えていた。それはある意味、俺にとっては心の平安を取り戻せるいい機会だったかもしれないのに。 このままそっと抜け出して、黙って帰ればいい。 そう思ったけど、体はなかなか思うように動いてくれなかった。 どうしてこういう状況になったのかさっぱりわからないのも嫌だが、なんの意図もなくこういうことしてくるあいつも嫌だ。 意識しているのは俺だけだって、嫌でも思い知らされるから。 俺は重たいあいつの手首を掴んで、その重たい拘束から逃れて起き上がった。 「ん?」 無理矢理立ち上がったから、寝ぼけ声は足元から聞こえた。とたんに、足首を掴まれた。熱い、大きな手のひら。

こうなるのが嫌だったから、できるだけそっと抜け出したつもりだったのに。

「帰るの?」


半分眠りの中にいるような、寝ぼけた声。無視して振り払ったら、そのまままた勝手に眠りに戻ってしまうような。 俺が想像していたのは、そんな声だった。


でも違った。

「……起きてたのか」

かろうじて出た声は我ながら情けなくなるくらいかすれていた。

でもあの目を見たら、誰だってそうなる。


アビエイターとは思えないくらいのんきで優しい雰囲気。普段は。

でもスイッチが入った時の彼がどうなるか、俺はよく知っていた。

だって「見ていた」のはもちろん、あいつだけじゃないから。


「もう逃げるなよ」

わかってるだろ?

そう、睨むような、それでいて乞うような表情で、声で言われて、素足の足首を掴んだ指でそっと肌を撫でられて、俺は震えあがった。

「逃げ、てなんか」


言いながら嘘だとわかってた。

俺だけじゃなく、彼も。

ずっと気づかないふりをしてた。


おまえ、なんで俺を見てる?


その理由がわからないほど子供じゃない。


「ジェイク・セレシン」

俺の名前を言っただけ。だけどその声が、目が、肌から伝わる熱が、すべてを伝えてきていた。

もう気づかないふりなんかできない。


俺は言い返す言葉をのみこみ、ただため息をついた。

そしてそれで、全部伝わった。








 
 
 

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