好きな場所(R18)RH展示 20230503 ③
- ろばすけ

- 2023年5月2日
- 読了時間: 8分
*Take Your Breath Away 3のおまけだった話です
「……もう。……なあ、しつこい」
ジェイクがかろうじて言った声は重くかすれていた。
途中で声が途切れたことさえ不本意だと言いたげな表情で、彼は重い手を持ち上げて自分の体に覆いかぶさっている恋人の肩を押した。
だがブラッドリーはろくに力が入っていない熱い手の抵抗を、まるで本気に取っていなかった。むしろちらりと視線を上げ、真っ赤に上気した彼の顔を確かめ、唇と舌で延々と可愛がり、きつく勃ち上がって赤くなっている小さな突起を甘噛みする。
「っ、」
とたんに、じりじりとシーツの上で動いていた踵が自分の腰を蹴る衝撃を感じて、ブラッドリーは笑いをかみ殺した。なだめるように舌で押しつぶし、もう片方の、やはりついさっきまで同じように舐めて噛んでいたせいで濡れている右胸を指でつまみ上げ、重なり合った勃起を押し当てたまま腰をうごめかせる。
ジェイクの手は肩を離れ、彼の髪にもぐりこみ、頭ごと引き離そうとしてきたが、興奮に息を荒げたブラッドリーにとっては、地肌に力のこもった指先が触れてくるのは、また別の愛撫のようにしか感じられなかった。
「ブラッド、あ、んんっ、もう」
「このままいける?」
再び視線を上げて顔を確かめると、きつく目を閉じ、唇をなまめかしく開いて荒い呼吸を続けているジェイクの表情が目に入り、ブラッドリーは自分の鼓動がさらに早くなるのを感じながら、押し付けた勃起ごと、腰をいやらしく回した。
どちらのものかわからない、いや、間違いなく両方が混じった先走りが、濡れた、耳をふさぎたくなるような音を立てる。
それだけで、ブラッドリー自身も強い快感を得ていたけれど、忙しなく呼吸を繰り返し、普段の端正さをすっかり忘れた様子で何度もかぶりを振る恋人は、まるで違う種類の感覚に翻弄されているのだと伝わって、彼は不思議な全能感のようなものに囚われていた。
自分の手で、舌で、そしてきっとこの後にはペニスで。
あらゆる形で与えあいたいと願う快感に恋人が翻弄され、我を忘れている姿を見るのは、体で感じるのとはまた違う快感だった。
ジェイクが、どうやら胸をいじられて感じることに抵抗があるようなのだとわかっているから、なおさら。
「、やだ」
「どうせ一回じゃ終わらない」
彼が嫌がっているのはイクこと、じゃない。
そうわかっていたが、ブラッドリーはあえてそんなふうに返し、口の中に入れた敏感な場所にやわく歯を立て、もう片方の先端を指で押しつぶし、そして口の中で腫れ上がったそれを乳輪ごと吸い上げた。
「あ、っあ、っ!」
そして重なった体がのけぞり、息を飲み、下腹で熱い飛沫を感じる愉悦を味わった。
◆
「くすぐったい、って」
笑いながらブラッドリーがそう言うと、ジェイクは口惜しそうな表情を一瞬浮かべた。
「なんで」
「なんで、って俺に聞かれても」
ジェイクはしばらくの間、ベッドに横になったブラッドリーの胸で遊んでいたのだった。
彼にとってはいつもされているのと「おなじように」、指先で押しつぶし、甘噛みし、口に入れて舐る愛撫を繰り返しても、ブラッドリーは期待するような反応をしない。
『ここ、されるの好きだろ?』
そんな台詞を、ブラッドリーはよく口にした。
確認するようでいて、その実「聞くまでもなくよく知ってるんだ」と主張するような言葉を聞くたびに、ジェイクは毎回混乱させられた。
そもそも過去そんなふうに彼の胸に触れたのはブラッドリーだけだったけれども、自分の反応に一番驚かされていたのは彼自身だったからだ。
男の胸なんていじっても仕方ないだろ。
最初は確かにそう思ったはずなのに。
おまえが毎回、無駄にしつこくいじるから。
そう言ってなじってやりたいような気にさせられたが、でも結局ジェイクはそうはしなかった。
本当は最初から、ブラッドリーがそこに触れるたびに、不思議な、知らなかった、痺れるような感覚があったのだと、わかっていたからだ。
◆
ジェイクは艦内の二段ベッドをもともと嫌いではなかった。
狭い場所に自分を滑り込ませるようにして横になり、常に止まることなく伝わってくる、エンジンと波を切る深く重い振動を頭に浮かべて目を閉じ、深く呼吸をすると、すぐに眠ることができる。
自分を「格納」している感覚。
そう言葉にしたときに笑ったのは彼の恋人だった。その当時は、そんな関係ではなかったが。
『冗談じゃないよ、モノじゃないんだぜ』
返された言葉の意味ももちろん理解できたけれど。
彼がこの硬いベッドを嫌いな理由がわかったのは、もう少し後になってからのことだ。
『俺はあそこで横になると、たいてい余計なことを考えちまう』
いったいどんなきっかけでそんな話をしたのだったか、ジェイクは今となっては思い出せないことを少しだけ惜しく思った。
『まったくもって軍人失格だな』
そしてその時の自分が返した言葉も、取り消してしまえるなら取り消したいと今なら思うのだ。
『俺たちはもっとずっと早く、ちゃんと話し合って、お互いに考えていることを口にできてたらよかったんだ』
ジェイクがそう言ったとき、ブラッドリーは笑って返した。
『どうかな。若いころはちゃんと口にできるとか言う以前に、本当に何にも考えてなかったよ。おまえは違ったかもしれないけど、少なくとも俺は』
それを聞いた時、ジェイクは黙らざるを得なかった。
確かに彼らが出会ったときには、ふたりともあまりにも若かったのだ。
「ふ」
鼻から抜けた吐息が、甘ったるい音を伴っていたことに気づいて、ジェイクは眉をひそめた。
彼が今横になっているのは、ブラッドリーが嫌っていた固い二段ベッドの上段だった。
今回の任務の間、彼は偶然奇数になった同じ階級の仲間のなかで、一人部屋を与えられるという幸運を得た。
狭い部屋を仲間を共有することにはすっかり慣れていたし、制約の多い生活を強いられるのも仕事のうちだと割り切っていたはずだったから、うらやましがる同僚たちに「代わってやってもいいけど?」と軽く返したりもしたのだ。そのときは。
けれど。
やがて彼は気づいた。
ブラッドリーと数ヶ月一緒に暮らした後の最初の海上任務だった。
それまでとは、何かが違うのだ、と。
明かりを消して、ベッドで目を閉じて、それでもなかなか眠れず、彼が最初に手を伸ばしたのは、着ていたTシャツの内側だった。
手のひらで腹を撫でたが、まっすぐ下着の中に手を伸ばす気にはなれなくて、そのまま指はゆっくりとあがっていった。
学生の頃から寮暮らしが長く、自慰は当然時折したが、完全に一人きりになれる個室のシャワーで慌ただしく済ますのが常だった。仲間が入ってくる可能性がある部屋でしようと思ったことはない。
それは彼自身の中で思いがけず強い禁忌になっていた。
けれど、今彼は一人だった。毎晩のようにブラッドリーと体を重ねていた時期を経た後で。
指先は、ブラッドリーの手の動きの記憶を辿るように動いた。筋肉の隆起を揉み込むようにし、そして指先が固くなった先端を探り当てる。
手のひらで押し揉み、すぐに応えて勃ち上がる先を指でつまむと、それだけで膝が上がる。
指先にはすぐに力がこもり、押し込み、痛みを感じるほど強く摘まみ上げるころには、脚の間で兆した熱ははっきりと角度を持っていた。膝をすり合わせるようにして、ジェイクはきつく目を閉じた。
なんで、ここでこんな。
自問しても答えはない。ただ脳裏にあったのは、からかうように舐め、嚙んでくる濡れた舌や唇や歯の感触だった。もちろん、ここにはいないブラッドリーの。
「っ、ん」
次第に指に力を込めながらも、ジェイクは物足りなさに膝をすり合わせたが、強引に脚の間に割り込んで握ってくる太い指も、押し付けられてくる濡れたペニスの熱もここにはない。ぶ厚い体の重みも、耳元で繰り返される深い吐息も、まぶたを閉じていても感じるほど強い、食い入るような視線も。
『このままいける?』
その時そんな声が聞こえた気がした。
そんなのムリだ。
答える代わりに、彼はただかぶりをふり、唇を噛んだ。
◆
ジェイクは家に足を踏み入れた途端に、待ちかねていたブラッドリーのキスを受けて、そのまま動けなくなった。
壁に押し付けるようにされて、分厚い舌が唇を割り開き口の中に押し入ってきて、まるで確かめるように音を立てて隅々までさぐりまわっていく。
ジェイクはそれをなすすべもなく受け止めながら、両手で恋人の全身の輪郭を確かめた。
背の高さも、腰の厚みも、腕の太さも。一回り大きく、体温が高く、乾いていて、そしてよく知っている匂いがする。
少しだけ腰を落として、自分をきついくらい抱きしめて逃げられないようにして、兆した場所を太腿に押し付けてくる。
まだサービスカーキのままの自分と、くつろいだ部屋着のままの彼と。
何もかも違う。けれども一刻も早く触れたかったことは同じだ。
そう思っていた。けれど。
「なあ、どうしてほしい?」
?
なぜそんなことを問われるのか。すぐには飲み込めなくてただ疑問符を返したジェイクを見おろして、ブラッドリーは言った。
「いま一番してほしいこと、だよ。教えて」
言葉で言えと言われているのだとわかって、ジェイクは荒い息をついて彼を睨みつけた。
そんなことは、誰よりも彼が一番よく知っているはずだったからだ。
けれどもブラッドリーは笑って返した。
「もちろんわかってるつもり、だし、ぜんぶ、何もかもしてやる。けど。なにを「一番」してほしいのか知りたい」
一番してほしいこと。
その言葉と共に真っ先に連想したことが何か気づいて、ジェイクはきつく目を閉じた。
「……なあ、教えて」
「……」
「ジェイク」
「……」
「ハンギー、なぁ」
言葉と共にあまく耳を噛まれて、彼は首を振った。ベッドでだけ使われるその呼び名は、耳に入るだけで愛撫のように思えてしまう。
「それ、やめろって」
「おしえて」
ジェイクは震えそうになる指先をどうにか動かして、シャツのボタンをはずし、胸をはだけた。
そしてきつく目を閉じ、さらに背けた顔を羞恥に赤く染めたまま言った。
「……噛んで」



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