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20230220 Your Place, or Mine 2/Tom

  • 執筆者の写真: ろばすけ
    ろばすけ
  • 2023年2月19日
  • 読了時間: 3分

更新日:2023年3月4日


2/Tom



 エジンバラでお待ちしています。

 合格通知を見て、僕はちょっと飛び上がりそうになった。

 マーク・ライランスが少人数での短期セミナーをやる。そう聞いただけでものすごく興奮した。

 そのあと「場所はエジンバラ」ということがわかって仲間の多くががっかりしてたけど、僕にとってはそれはむしろさらに嬉しいニュースだった。

 参加を認められるためには最近の仕事や課題の脚本を読んだテープを見てもらわなきゃならない。僕は知り合いに頼み込んでかなり気合の入ったテープを作った。

 もちろんセミナーに参加したかったからだ。俳優としてもっとも尊敬している人に直接教えてもらえる機会なんてなかなかないから。

 でも正直言って、合格すれば、エジンバラに滞在する「口実ができる」っていうのも僕にとってはものすごく大きなことだった。

 だってあの街には、ジャックがいるから。


 彼と初めて会ったのは、僕がまだ学生だった頃にやったCMの仕事だった。

 クリスマス向けのけっこう気合の入った長尺のCMで、僕らは3日くらいずっと同じスタジオに詰めていた。

 まがりなりにも「演技」でお金がもらえる初めての機会だったから、僕は今思えば気合ばかり先行していた状態だった。

『もう少し肩の力を抜いていこうぜ』

 最初、そう言って背中を叩いてくれた手に僕は驚いて飛び上がった。

『あ、ごめん脅かすつもりじゃなかったんだけど』

 そう言って笑った顔はなんだか僕を子供扱いしているように見えて、僕が一番最初に感じたのはちょっとした反感みたいなものだったかもしれない。

 なめられるくらいだったら生意気だと思われる方がいい。僕は演劇学校でも、いくつも受けたオーディションでも、ずっとそんな矜持でもってやってきたけれど、この童顔のせいで勝手な勘違いをするやつは多いから。

『別に』

 こんなのどうってことない。そういう顔をして見せたつもりだ。でもまあきっと、それは虚勢だとばれていたんだと思う。

 つまりその人がジャックだった。

 彼こそ最初出演者かと思ったような長身のハンサムだったけど、僕が言い返した瞬間へらりと笑って見せて言った。

『そうか。じゃあ次のシーンは一発でキメてくれよ。ちょっとスケジュールが押してるんだ』

 監督でもないのにそんなこと言ってくるなんて、この人は一体どういう立場の人なんだろう?

 僕はそう疑問に思ったのだったけれど、彼はそのCMの制作会社のアシスタント的な役割をしていた。現場でのスケジューリングとか、ランチの手配だとかまで。

 たくさんの人が出入りしている現場で、彼は全員の仕事の内容と名前が一致しているように見え、初めての撮影現場だった僕にいろいろ教えてくれたのだった。


 そしてつまり簡単に言えば、僕はその時彼に一目ぼれしたのだ。


>> 3/Jack

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