20230302 Your Place, or Mine 5/Jack
- ろばすけ

- 2023年3月2日
- 読了時間: 4分
更新日:2023年3月4日
『十日、いや二週間かかるかな。ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど、来れるか?』
キリアンからそんな連絡があったのは、仕事の撮影の段取りがだいたいついたタイミングだった。
キリアンはロンドンにいたころに知り合ったクリエイターの一人だ。映画を撮りたいってずっと言ってて、脚本を書きためていた。
俺はロンドンにいたころ彼と、彼が信頼している数人の仲間たちと、自分が作るならどんな作品にするか、みたいな話を延々と繰り返していた。
いつかは俺がプロデュースして、キリアンが脚本と監督をやって、カメラはキリアンの親友のトムが担いで、みたいな夢だ。
俺はこっちに戻ってきたけど、その夢は消えたわけじゃない。それぞれの場所で足場を固めていつか実現させる。そう思ってきたんだ。
そして去年、キリアンは彼が書いた脚本で短編を撮るための資金を得た。俺はその作品には直接関われなかったけど、キリアンとトムは組んで準備を進めていたんだ。
「手伝う、って具体的に何すりゃいいの?」
『ロケの必要があって手が足りないんだよ。エキストラの手配と、撮影中の彼らの面倒を見れるやつがなくて』
それを聞いて「ジャックがいたら」って思うのはわかる。そう思ってしまって、俺は笑った。
「二週間ロケするわけじゃないだろ?」
『もちろん。だけど段取りとか全然もたついてて』
明らかに苛ついてる声だけでなんとなく言いたいことは伝わって、俺は笑うしかなかった。
学生でもないのに二週間なんて軽く言われても、ってなるのが普通だろうと思って。でも俺はそうじゃなかったから。
『もし実現したらなんでも手伝うよ』
俺は確かに何度もそう言ったことがあったし、今だってもちろん同じ気持ちだ。だから言った。
「わかったよ。でもさすがにスケジュール次第なんだけど?」って。
繰り返すが、それはこっちでの撮影の段取りがだいたいついたタイミングだった。
『数週間は休みなしになるけど、全部終わったらまとめて休みを取ろうな』
そうアンドリューと話した直後だった。
でもほんとうは、俺はぼんやりと、休暇を取ってどこかへ行くっていうよりも、せっかくトムがこっちに来るって言ってるならそれに合わせてのんびり過ごしてもいいな、くらいに思ってたんだ。
でもキリアンのスケジュールは、俺が休暇を取れるタイミングと重ねることができた。
そしてトムがエジンバラに来るのは、あくまで勉強のためだ。当たり前だけど、俺に会いに来るわけじゃない。
俺とトムの関係は、ちょっと微妙なものなんだ。
最初に親しくなった時、短期間ではあったけどすごくいい関係になれた気がしてた。
それで俺は、盛り上がった打ち上げが終わりになるころに、ほとんど耳打ちするような距離で『このまま俺の部屋に来る?』って言った。
それは、いかにも遊び人の適当な台詞に聞こえたのかもしれないんだけど。
『ものすごく慣れた感じで言うんだね』
そう言った彼の呆れたような顔がちょっと忘れられずにいた。
俳優になりたい彼と、映画を作る側になれたらいいと思ってる俺。話が合うのは当然のところもあったし、単にそういう意味では俺は好みじゃなかったのかも。
彼はちょうど学校を終えようとしてるところで、これからキャリアを築いていかなきゃわけで、演技の勉強とか仕事がどうなるかとかそういうことで頭がいっぱいってタイミングだったはずだ。
俺がすぐに仕事を紹介できるような立場だったらよかったんだけど、もちろんそうじゃなかったし。俺ができたのはせいぜい、オーディションの話があれば伝えるとか、業界の人が集まる場に一緒に行くくらいのことだったんだけど。でも結局俺たちはそうやっていい友達になった。
簡単に寝たりしないほうがよかったんだ、と思うようにした。俺のせいばかりじゃないはずだけど、そうなったら続かないことの方が多いから。
『頼むよ、おまえに断られたらちょっと他に思いつかない』
キリアンもそんな声を出すことがあるんだな、って思ったら俺はちょっと可笑しくなった。
「わかった。やるよ」
そしてそう返事してしまった後で、思いついたんだ。
『なあ、ちょうどいいから部屋交換しないか? 俺の部屋好きに使ってくれていいから、俺も君の部屋で過ごしていい?』
俺はそうトムに送った。
>> 6/Tom




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