20230221 Your Place, or Mine 3/Jack
- ろばすけ

- 2023年2月21日
- 読了時間: 3分
更新日:2023年3月4日
3/Jack
久しぶりにきたトムからの連絡は、俺を驚かせた。
『夏にそっちに2週間くらい滞在したいんだ。部屋を借りるのにどの辺がいいのか、さっぱり見当がつかないからもしアドバイスがあれば』
「そっち、って、エジンバラに来るってことか?」
慌ててそう聞いたら、さらにびっくりするような返事が来た。
『マーク・ライランスの短期セミナーがあって、ダメもとで申し込んだら通ったから』
なるほど。トムは演技についてはちょっとマニアックなくらい勉強熱心だから、そんな機会があったら絶対参加したいと思うだろうってことはわかる。けど。
「自腹でわざわざ?」
『そうだよ、特に「スポンサー」はついてないからね!』
その台詞にはちょっと笑った。
「夏っていつだよ。意外と観光地だからハイシーズンだと高いかも。
今からまた打ち合わせだから、時期と予算と送っといて。合間に見とく」
「今からものすごく忙しくなるぞ」って思ったところだったのに、俺はごく当たり前に「面倒見てやらなきゃ」って思ったわけだった。
だって、トムが俺の地元に来るんだぜ?
トムは俺よりいくつか年下の若い俳優だ。
出会いは、俺がまだロンドンの制作会社でアシスタントをやってた頃に担当したCMの現場だった。
クリスマス向けの長尺の作品で、「クリスマスを前に、みんなにちょっとした魔法が掛かる」みたいな話だ。
雪で電車が止まってしまって駅で足止めを食らった数人が、サンタクロースを手伝って、たくさんのプレゼントを運んだあと、そりに乗って自宅に帰りつく。
登場人物の年齢も性別も人種も様々だったけど、その時まだ演劇学校の学生だったトムは、足の悪いおばあさんを送り届けて孫へのプレゼントもちゃんと用意する、気の利いた少年の役だった。
オーディションはクライアントと監督と撮影監督がやったから、俺はトムとは衣装合わせで初めて会った。
彼の役は、脚本的にも用意されていた衣装を見ても、十五、六才のイメージで、衣装を着た彼に会った俺は当然それくらいの年なんだろうと思ったんだ。けど。
『あ、あの子成人してるんだ?』
書類を確認して驚いた俺が思わずそう言ったら、ヘアメイク担当のスタッフは笑っていた。
『ギルドホールの学生。もうすぐ卒業なんだって』
彼にとって俺の第一印象は、きっとあんまりよくなかっただろう。
一方で俺が最初から彼を気にしてたのは、もちろん彼がとてもきれいな子だったからだ。それは否定しない。
でも緊張はそのまま厳しい表情になりがちで、笑うとそこからのギャップがすごくて。
こんな可愛い顔して笑うんだな。
そう思ったのは最初のカットでOKが出た瞬間だったかも。
もっと見たいと思ったのは、仕事としてはあんまり褒められたことじゃなかった。たぶん。
でも撮影は3日くらい続き、俺はそのころはまだまだ雑用係みたいなもので、出演者の面倒を見るのがメインの仕事だったし。
休憩の時に俺が持って歩いてたカメラに彼が興味を示して、レンズの話なんか始めたらすぐ打ち解けることができた。
『なんだ。そんなに年が違うわけでもないんだ』
そう言った彼が初めて笑って見せてくれたときには、ちょっと見入ってしまってたし、クランクアップするころにはすっかり親しくなってたんだ。
でもまあそれで、俺は失敗したんだけど。
>> 4/Tom




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