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20230123#RH「日常」

  • 執筆者の写真: ろばすけ
    ろばすけ
  • 2023年1月23日
  • 読了時間: 2分

「ブラッドリー・ブラッドショー!」

 ジェイクはそんなとき、いつもその「特別な」声で、恋人をフルネームで呼んだ。

 もちろん完全に、部下を叱責するときの声だし、その瞬間ブラッドリーは20年近くの軍属で染みついた反射で彼のところに飛んでいって背筋を正してしまうのだった。

「イエス、サー!」とぎりぎり言いそうになるのを飲み込んで。

 


 そしてその日は。

 相変わらずストイックな彼のパートナーが、朝のランニングから戻ってきた気配がしたばかりだった。

 ブラッドリーはベッドの中でまどろみながら、この心地いい空間から出ようかどうしようかと迷っていた。

 今起きれば、恋人がシャワーを浴びて出てくるのに合わせて朝食を用意してやれる。そうわかっていたが、深夜に帰宅したばかりの体は、今朝は朝食を用意してもらうのは自分のほうでよいではないかと主張していた。

「雄鶏のくせに寝汚い」

 お互いに言い飽き、聞き飽きた言葉だったが、今日もまた聞かされることになるかもしれないな……。

 ブラッドリーがベッドの誘惑に負けてそう思ったところだったのだ。



 その瞬間自堕落な選択肢は消え、慌てて階下のランドリールームへ走っていくと、運動してきたばかりで上気し、うっすらと汗をかいたジェイクが立っていた。その姿は彼の目にはひどくセクシーに見え、普通に起きて出迎えたなら、そのままそそられてキスしていたに違いない様子だった。

 けれど。

 ジェイクの表情はひどく冷たいもので、右手はランニング用に彼が愛用しているジャージを履いた腰に当てられ、もう片方の手は、そこに置かれている洗濯カゴを指さしていた。

 ブラッドリーは体に染みついた直立不動の姿勢を保ったまま、小さくため息をついた。

 見えたのは、ひっくり返って丸まったままの、彼が昨晩脱いだ靴下だ。しかも片方は放り込んだ時に外れたのか床に落ちている。

「……ごめん」

「これで、この先ひと月おまえが洗濯担当決定な」

 う。

 昨日は、帰宅が深夜になって、疲れてて、それどころじゃなくて。今すぐ、直すし、今日は俺がやるから。

 言いかけた言葉を無理やり飲み込んだブラッドリーを見て、ジェイクは冷静に返した。

「約束は約束。そうだったよな?」

 そしてもちろんその問いかけに、ブラッドリーは頷いて返すしかないのだ。









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