top of page
検索


2023.1/19「息子」
「あなたという存在はほんとうに素晴らしいわよね」 彼女がそう言ったので、僕は笑った。 僕らは青い壁紙で彩られた美しいキッチンで向き合っている。 「田舎の家」と彼女が呼ぶその屋敷は、元々彼女が生まれ育った生家で、僕にとっては「夏の家」だった。...
2023年1月19日


2023.1/18「目撃者」
彼と知り合ったのは、彼がスリをしようとした瞬間を、偶然見てしまったのがきっかけだった。 最初は彼の手が、となりのベンチに座っている女性のバッグに伸ばされたのを見た。 持ち主の女性が、バッグのかすかな動きに反応したせいで彼は手を引っ込め、私は自分が見たのが本当に「未遂」だった...
2023年1月18日


2023.1/17「First Impression」#RH
シャワーを終えてバスルームを出ると、ベッドヘッドに寄り掛かってセルを見てるブラッドリーの姿が目に入った。 「すげーたくさん写真とかビデオが来てる」 薄暗い部屋の中で、光っている端末の光を受けた顔がぼんやりと浮かび上がっていて、なんだか知らない人みたいに見えた。...
2023年1月17日


2023.1/16「The Big Day」#RH
シンプソン中将はペンを持ってからふと疑問に思った、みたいな顔をしてピートを振り返って言ったんだけどね。 「私が最初でいいのかな? 大佐、君が最初にサインすべきでは?」 去年の任務はもちろん、昔のいきさつも一通り知ってる人だから、ピートに気を使ったんだと思う。でも、ピートは...
2023年1月16日


2023.1/15 「You Look Good (Reprise)」#RH
新刊 Take Your Breath Away 3の、お初の話(書下ろし)の一部です
2023年1月15日


2023.1/14「いつか別れるとしても」
「付き合うことにして、それでずっと一緒にいよう」 「一緒にいて、なにをする?」 「なんでもいい。なにか新しい、大きなこと」 僕が何か言うたびに、君は笑ったね。まるで途方もないことを言いつのる子供見守ってるみたいに。 「とにかくずっと一緒にいるんだ」...
2023年1月14日


2023.1/13「家族」
年を取るほど、いろんなことの難易度はあがる。 恋をするのも、パートナーとしての関係を築くのも、ましてや家族になるのも。 その夏俺は彼女と出会って、年はそう変わらないのに、まるで少女みたいな表情をすることに単純に惹かれた。...
2023年1月13日


2023.1/12「夢の時間」
「「幸せを感じる時間」を夢で見たとして、君ならどんな内容になる?」 突然のそんな質問に、僕は驚いてまじまじと彼を見た。職場の近くのダイニングバーはいい感じに満席で、酔っぱらった人たちの会話が、流れている音楽をかき消しそうな勢い。料理はおいしくて、フレンドリーなスタッフが通...
2023年1月12日


2023.1/11「走る」
「走りだしたくなるときってあるだろ?」 そう言って彼は笑った。 朝までパーティーで一緒だった。久しぶりに笑った彼を見た。 ああもう乗り越えたのかもしれない、と俺は確かに思い、そしてすぐにそれが初めてじゃないことを思い出す。...
2023年1月11日


2023.1/10「部屋」
触れたら10秒で死んでしまう。 そんなピンクの雲が、ある日突然現れた。 いったい世界中でどれだけの人が死んだのか、そもそも世界中どこでも同じ現象が起きたのか、それすらわからない。 平凡な土曜日の朝だった。 うっすらと曇っていて、暑くもなく寒くもなく。...
2023年1月10日


2023.1/9「声」
『君はきっと忘れてしまうだろう』 あなたがそう言った、ってことを一番はっきり覚えてるって言ったら、あなたは笑うかな。 あなたの「予言」通り、僕はあの奇妙な数週間のことを、そんなに覚えていない。 初めてニューヨークへ行った。ニューオリンズにも行った。...
2023年1月9日


2023.1/8「影」
例えば僕の何かが何かに残るとして、どんな「形」だったらいいかってことを時々考える。そう言ったら彼は目を丸くした。 「何かが何かに、って?」 「わかりやすいのは、記憶が君の中に残って、単に思い出すのか、幽霊みたいに「見える」か、声が聞こえるとか」...
2023年1月8日


2023.1/7「闇」
「ろうそくってこんなに暗いんだな」 彼はそう囁くように言った。 確かに店の中はとても暗かった。 壁にもそれぞれのテーブルにも、たくさんのろうそくが燃えていたけれども、明かりはほんの狭い範囲を弱々しくオレンジがかった色で見せるだけで、とても「照らし出す」というほどの力はない。...
2023年1月7日


2023.1/6「帰還」
アーロン・テイラー=ジョンソンが007で、ブライアン・タイリー・ヘンリーがQだったら。 夜中をとうにすぎた時間だった。 穴蔵に一人残っていたQが物音に気づいて振り返ると、もう手が届きそうな場所にボンドがいた。 「おいおいなんだ、脅かすなよ!」 「ただいま」...
2023年1月6日


2023.1/5「10年と10年」#グラスオニオン
20年。それだけあったら、生まれたばかりの赤ん坊が、もう世の中のことはぜんぶわかってるって顔をした大学生になってる。街並みは一変するし、友人のうち何人かは死ぬ。それくらい長い年月だ。わかってる。 でも年を取ると、時間の感覚がおかしくなるなんていうことは誰でも知っている事実だ...
2023年1月5日


2023.1/4「スナップ」
例えばみんな携帯で写真を撮るだろ? 恋人の寝顔とか、日向ぼっこしている飼い猫の姿とかを。 そういう一つ一つを、言葉でこねくりまわしてしまうのが僕だ。 画家がスケッチするみたいに? そう、たぶんそれに近い。 「瞬間」をどう言葉で描写できるのか、それが他人とは違う、より美し...
2023年1月4日


2023.1/3「カーテン」#RH
俺は、まあせめてもの配慮で薄いのは残して、ぶ厚い遮光カーテンだけ開けることにした。 南側の壁面はほぼ全部が大きな「窓」だ。真ん中からゆっくりカーテンが開かれていき、本当はもう昼近いのに、まるで夜中のようだった部屋の中にカリフォルニアの強い日差しが筋になって入ってくるのを、...
2023年1月3日


2023.1/2「兄」
ずっと冷凍してあった大きな肉の塊をちょっと外に置いておいたからって、中まで溶けるわけじゃない。僕はまさにそんな感じだった。 見つけた小屋に入り、火を焚き、肌では炎の熱を感じていたけれど、凍えきった体はいつまでも震え続けた。 でもその時、何の前触れもなく小屋の扉が開いた。...
2023年1月2日


2023.1/1 「椅子」
君が突然いなくなってしまったあと、俺は君の奥さんと知り合った。 信じないかもしれないけど、彼女俺の部屋にいきなり訪ねてきたんだぜ? ここを調べ上げるなんて怒りに我を忘れた未亡人の行動力はすごい、と思ったけど、元はと言えば、俺があの絵を君に贈ったせいだった。...
2023年1月1日


2022.12/25「帰宅」#グラスオニオン
ブノワは自宅のドアを開けるまえに大きく深呼吸をした。 間違いなく自分の住まいなのだが、彼一人の部屋ではない。今の彼にとっては「心配の種」がこのドアの向こうにいるはずだった。 おそらくは。たぶん。願わくば。 ブノワはその優秀な頭脳で普段はあまり使わない言葉を思い浮かべ、それか...
2022年12月25日
bottom of page

